石の門柱《もんばしら》に鉄格子の扉が取り附けてあって、それが締めて、脇の片扉だけが開《あ》いていた。門内の左右を低い籠塀《かごべい》で為切《しき》って、その奥に西洋風に戸を締めた入口がある。ベルを押すと、美しい十四五の小間使が出て、名刺を受け取って這入《はい》って、間もなく出て来て「どうぞこちらへ」と案内した。
 通されたのは二階の西洋間であった。一番先に目に附いたのはWatteau《ワットオ》か何かの画を下画に使ったらしい、美しいgobelins《ゴブラン》であった。園《その》の木立の前で、立っている婦人の手に若い男が接吻《せっぷん》している図である。草木の緑や、男女の衣服の赤や、紫や、黄のかすんだような色が、丁度窓から差し込む夕日を受けて眩《まば》ゆくない、心持の好《い》い調子に見えていた。
 小間使が茶をもて来て、「奥様が直ぐにいらっしゃいます」と云って、出て行った。茶を一口飲んで、書籍の立て並べてある棚の前に行って見た。
 書棚の中にある本は大抵己のあるだろうと予期していた本であった。Corneille《コルネイユ》とRacine《ラシイヌ》とMoliere[#「一つ目の「e」
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