トン夫人に連れられて、南国をさして雪中を立とうとする、銀の鈴の附いた橇《そり》に乗りに行《ゆ》く。
この次の幕間《まくあい》であった。少し休憩の時間が長いということが、番附にことわってあったので、見物が大抵一旦席を立った。純一は丁度自分が立とうとすると、それより心持早く右手の奥さんが立ったので、前後から人に押されて、奥さんの体に触れては離れ、離れては触れながら、外の廊下の方へ歩いて行く。微《かすか》なparfum《パルフュウム》の※[#「※」は「勹+二」、第3水準1−14−75、61−2]《におい》がおりおり純一の鼻を襲うのである。
奥さんは振り向いて、目で笑った。純一は何を笑ったとも解《かい》せぬながら、行儀好く笑い交した。そして人に押されるのが可笑しいのだろうと、跡から解釈した。
廊下に出た。純一は人が疎《まばら》になったので、遠慮して奥さんの傍《そば》を離れようと思って、わざと歩度を緩め掛けた。しかしまだ二人の間に幾何《いくばく》の距離も出来ないうちに、奥さんが振り返ってこう云った。
「あなたフランス語をなさるのなら、宅に書物が沢山ございますから、見にいらっしゃいまし。新し
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