曹浮[#一つ目と二つ目の「e」は「´」付き]《エレジアック》な要素があるようにしたって、それがなんの煩累《はんるい》をなそうぞと、弁護もして見る。要するに苦悩なるが故に芟《か》り除かんと欲し、甘き苦悩なるが故に割愛を難《かたん》ずるのである。
純一はこう云う声が自分を嘲《あざけ》るのを聞かずにはいられなかった。お前は東京からわざわざ箱根へ来たではないか。それがなんで柏屋から福住へ行《ゆ》くのを憚《はばか》るのだ。これは純一が為めには、随分残酷な声であった。
昨夜《ゆうべ》好く寐なかったからと、純一は必要のない嘘を女中に言って、午食《ごしょく》後に床を取らせて横になっているうちに、つい二時間ばかり寐てしまった。
目を醒まして見ると、一人の女中が火鉢に炭をついでいた。色の蒼白《あおじろ》い、美しい女である。今まで飯の給仕に来たり、昼寐の床を取りに来たりした女中とはまるで違って、着物も絹物を着ている。
「あの、新聞を御覧になりますなら、持って参りましょう」
俯向《うつむ》いた顔を挙げてちょいと見て、羞《はじ》を含んだような物の言いようをする。
「ああ。持って来ておくれ」
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