桝宦sけんそう》の中《うち》に時間が来て、誰彼《たれかれ》となくぽつぽつ席を立ち始めた。クレエムを食ったfemme omineuse《ファム オミニョオズ》もこの時棒立ちに立って、蝙蝠傘を体に添えるようにして持って、出て行《ゆ》く。純一の所へは、駅夫が切符を持って催促に来た。
プラットフォオムはだいぶ雑※[#「※」は「「しんにゅう」+「罘」の「不」を、「|」を挟んで上下に「ハ」を二つ並べたような字」、第4水準2−89−93、182−6]《ざっとう》していたが、純一の乗った二等室は、駅夫の世話にならずに、跡から這入って来た客さえ、坐席に困らない位であった。向側《むこうがわ》に細君を連れて腰を掛けている男が、「却《かえっ》て一等の方が籠《こ》んでいるよ」と、細君に話していた。
汽車が動き出してから、純一は革包を開けて、風炉敷の中を捜して、本を一冊取り出した。青い鳥と同じ体裁の青表紙で、Henry Bernstein《アンリイ ベルンスタイン》のLe voleur《ル ヴォリヨオル》である。つまらない物と云うことは知っていながら、俗受けのする脚本の、ドラマらしいよりは寧《むし》ろ演劇らし
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