なかった。そこで恩もなく怨みもなく別れてしまった。勿論《もちろん》先方が近づいて来るにも遠ざかって行《ゆ》くにも、主動的にはなっていたが、こっちにも好奇心はあったから、あらわに動かなかった中《うち》に、迎合し誘導した責は免れないと、大村は笑いながら云った。
大村がこう云って、詞を切ったとき、二人は往来から引っ込めて立てた門のある、世尊院の前を歩いていた。寒そうな振《ふり》もせずに、一群の子供が、門前の空地で、鬼ごっこをしている。
「一体どんな性質の女ですか」と、突然純一が問うた。
「そうさね。歌を見ると、情に任せて動いているようで、逢って見ると、なかなか駈引のある女だ」
「妙ですね。どんな内の娘ですか」
「僕が問いもせず、向うが話しもしなかったのだが、後《のち》になって外《ほか》から聞けば、母親は京橋辺に住まって、吉田流の按摩《あんま》の看板を出していると云うことだった」
「なんだか少し気味が悪いようじゃありませんか」
「さあ。僕もそれを聞いたときは、不思議なようにも思い、又君の云う通り、気味の悪いようにも思ったね。それからそう思ってあの女の挙動を、記憶の中から喚び起して見ると、年は
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