がって来る女学生が一人、大村に会釈をした。俯向《うつむ》けて歩いていた、廂《ひさし》の乱れ髪を、一寸横に傾けて、稲妻のように早い、鋭い一瞥《いちべつ》の下《もと》に、二人の容貌、態度、性格をまで見たかと思われる位であった。
 大村は角帽を脱いで答礼をした。
 純一は只女学生だなと思った。手に持っている、中身は書物らしい紫の包みの外には、喉《のど》の下と手首とを、リボンで括《くく》ったシャツや、袴《はかま》の菫色《すみれいろ》が目に留まったに過ぎない。実際女学生は余り人と変った風はしていなかった。着物は新大島、羽織はそれより少し粗い飛白《かすり》である。袴の下に巻いていた、藤紫地に赤や萌葱《もえぎ》で摸様の出してある、友禅縮緬《ゆうぜんちりめん》の袴下の帯は、純一には見えなかった。シャツの上に襲《かさ》ねた襦袢《じゅばん》の白衿《しろえり》には、だいぶ膩垢《あぶらあか》が附いていたが、こう云う反対の方面も、純一には見えなかった。
 しかし純一の目に強い印象を与えたのは、琥珀色《こはくいろ》の薄皮の底に、表情筋が透いて見えるようなこの女の顔と、いかにも鋭敏らしい目《ま》なざしとであった。

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