前の問題としては生じていない。只棄ててしまうには忍びなかった。一体名刺に何の意義があるだろう。純一はそれをはっきりとは考えなかった。或《あるい》は彼が自ら愛する心に一縷《いちる》のencens《アンサン》を焚《た》いて遣った女の記念ではなかっただろうか。純一はそれをはっきりとは考えなかった。
 純一は名刺を青い鳥のペエジの間に挟んだ。そして着物も着換えずに、床の中に潜り込んだ。

     十九

 翌朝純一は十分に眠った健康な体の好《い》い心持で目を醒《さ》ました。只|咽《のど》に痰《たん》が詰まっているようなので咳払《せきばらい》を二つ三《みつ》して見て風を引いたかなと思った。しかしそれは前晩《ぜんばん》に酒を飲んだ為めであったと見えて漱《うが》いをして顔を洗ってしまうと、さっぱりした。
 机の前に据わって、いつの間にか火の入れてある火鉢に手を翳《かざ》したとき、純一は忽《たちま》ち何事をか思い出して、「あ、今日だったな」と心の中《うち》につぶやいた。丁度学校にいた頃、朝起きて何曜日だということを考えて、それと同時にその日の時間表を思い出したような工合である。
 純一が思い出したの
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