は目で笑うことの出来る女であった。瞳に緑いろの反射のある目で。
 おちゃらはしなやかな上半身を前に屈《かが》めて、一歩進んだ。薄赤い女の顔が余り近くなったので、純一はまぶしいように思った。
「こん度はお一人でいらっしゃいな」小さい名刺入の中から名刺を一枚出して純一に渡すのである。
 純一は名刺を受け取ったが、なんとも云うことが出来なかった。それは何事をも考える余裕がなかったからである。
 純一がまだsurprise《シュルプリイズ》の状態から回復しないうちに、おちゃらは身を飜《ひるがえ》して廊下を梯の方へ、足早に去ってしまった。
 純一は手に持ていた名刺を見ずに袂《たもと》に入れて、ぼんやり梯の下まで来て、あたりを見廻した。
 帽や外套《がいとう》を隙間《すきま》もなく載せてある棚の下に、男が四五人火鉢を囲んで蹲《しゃが》んでいる外には誰《たれ》もいない。純一は不安らしい目をして梯を見上げたが、丁度誰も降りては来なかった。この隙《ひま》にと思って、棚の方へ歩み寄った。
「何番様で」一人の男が火鉢を離れて起った。
 純一は合札を出して、帽と外套とを受け取って、寒い玄関に出た。

    
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