い」と、小声で答えた。
「当り前さ。宴会というものはこんな物なのだ。見給え。又踊るらしいぜ。ひどく勉強しやがる」
 純一が背後《うしろ》を振り返って見ると、さっきの場所に婆あさん連が三味線を持って立っていて、その前でやはりおちゃらと今一人の芸者とが、盛んな支度をしている。上着と下着との裾をぐっとまくって、帯の上に持て来て挟む。おちゃらは緋の友禅摸様の長襦袢、今一人は退紅色の似寄った摸様の長襦袢が、膝から下に現れる。婆あさんが据わって三味線を弾き出す。活溌な踊が始まる。
「なんだろう」と純一が問うた。
「桃太郎だよ。そら。爺いさんと婆あさんとがどうとかしたと云って、歌っているだろう」
 さすが酒を飲む処へは、真先に立って出掛ける瀬戸だけあって、いろんな智識を有していると、純一は感心した。
 女中が鮓《すし》を一皿配って来た。瀬戸はいきなり鮪《まぐろ》の鮓を摘《つ》まんで、一口食って膳の上を見廻した。刺身の醤油を探したのである。ところが刺身は綺麗に退治てしまってあったので、女中が疾《と》っくに醤油も一しょに下げてしまった。跡には殻附の牡蠣《かき》に添えて出した醋《す》があるばかりだ。瀬戸は
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