断《た》って、このAtropos《アトロポス》は席を立った。
その時、老妓の席を立つのを待っていたかと思われるように、入り代って来て据わった島田は、例の別品である。手には徳利を持っている。
「あなた、お熱いところを」と、徳利を金鎖の親爺の前へ、つと差し出した。
親爺は酒を注がせながら、女の顔をうるさく見て、「お前の名はなんと云うのだい」と問う。
「おちゃら」と返事をしたが、その返事には愛敬笑《あいきょうわらい》も伴っていない。そんならと云って、さっきの婆あさんのように、人を馬鹿にしたと云う調子でもない。おちゃらの顔の気象は純然たるcalme《カルム》が支配している。無風である。
純一は横からこの女を見ている。極《ごく》若い。この間までお酌という雛《ひよこ》でいたのが、ようようdrue《ドリュウ》になったのであろう。細面の頬にも鼻にも、天然らしい一抹《いちまつ》の薄紅《うすくれない》が漲《みなぎ》っている。涼しい目の瞳《ひとみ》に横から見れば緑色の反射がある。着物は落ち着いた色の、上着と下着とが濃淡を殊にしていると云う事だけ、純一が観察した。藤鼠《ふじねずみ》、色変りの織縮緬《おり
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