かく湖水らしい。好《い》い景色だと云って好《い》い処もある。同じ湖水でも、洞庭湖《どうていこ》は駄目だ。冬|往《い》って見たからかも知れないが、洲《す》ばかりあって一向湖水らしくない」
 先生の支那に行《ゆ》かれた時の話と見える。先生は純一の目の自分の顔に注がれているのに気が附いて、「失礼ですが、持ち合せていますから」と云って、杯《さかずき》を差した。それを受けると、横の方から赤い襦袢《じゅばん》の袖の絡んだ白い手がひょいと出て、酌をした。
 その手の主を見れば、さっき踊っているのを、瀬戸が別品だと云って褒めた女であった。
 純一は先生に返杯をして、支那の芝居の話やら、西瓜《すいか》の核《たね》をお茶受けに出す話やらを跡に聞き流して、自分の席に帰った。両隣共依然として空席になっている。純一はぼんやりして、あたりを見廻している。
 同じ列の曽根の空席を隔てた先きに、やはり官吏らしい、四十恰好の、洋服の控鈕《ぼたん》の孔から時計の金鎖を垂らしている男が、さっき三味線を弾いていた、更けた芸者を相手に、頻《しき》りに話している。小さい銀杏返《いちょうがえ》しを結《い》って、黒繻子《くろじゅす》
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