《ほか》に今一つ宴会がおありなさるそうで、お先きへお立ちになりました。諸君に宜《よろ》しく申してくれと云うことでありました。どうぞ跡の諸君は御ゆっくりなさるように願います。只今|別品《べっぴん》が参ります」
所々《しょしょ》に拍手するものがある。見れば床の間の前の真中の席は空虚になっていた。
殆ど同時に芸者が五六人這入って来た。
十七
席はもう大分乱れている。所々に少《ちい》さい圏《わ》を作って話をしているかと思えば、空虚な坐布団も間々《あいだあいだ》に出来ている。芸者達は暫く酌をしていたが、何か※[#「※」は「口+耳」、第3水準1−14−94、140−8]《ささや》き合って一度に立ってこん度は三味線を持って出た。そして入口《いりぐち》のあたりで、床の間に併行した線の上に四人が一列に並んで、弾いたり歌ったりすると、二人はその前に立って踊った。そうぞうしかった話声があらかた歇《や》んだ。中にはひどく真面目になって踊を見ているものもある。
まだ純一の前を起たずに、背を円くして胡坐《あぐら》を掻《か》いて、不精らしく紙巻煙草を飲んでいた瀬戸が、「長歌の老松《おいまつ》と
前へ
次へ
全282ページ中177ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング