ときは、さすがに胸が跳《おど》った。それは奥さんに気兼をする感じではなくて、シチュアシヨンの感じであった。
いつか見た小間使の外にどんな奉公人がいるか知らないが、もう日が暮れているのだから、知らない顔のものが出て来はしないかと思った。しかしベルが鳴ると、直ぐにあの小間使が出た。奥さんがしづえと呼んでいたっけ。代々の小間使の名かも知れない。おおかた表玄関のお客には、外の女中は出ないのだろう。
ベルが鳴ってから電気を附けたと見えて、玄関の腋《わき》の※[#「※」は「木へん+靈」、第3水準1−86−29、119−14]子《れんじ》の硝子にぱっと明りが映ったのであった。
己の顔を見て「おや」と云って、「一寸《ちょっと》申し上げて参ります」と、急いで引き返して行った。黙って上がっても好《い》いと云われたことはあるが、そうも出来ない。奥へ行ったかと思うと、直ぐに出て来て、「洋室は煖炉《ストオブ》が焚《た》いてございませんから、こちらへ」と云って、赤い緒の上草履を揃《そろ》えて出した。
廊下を二つ三つ曲がった。曲がり角に電気が附いているきりで、どの部屋も真暗で、しんとしている。
しづえの軽
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