破壊せられるのに心附かずにいた。一たび繋《つな》がれては断ち難い、堅靭《けんじん》なる索《なわ》を避けながら、己は縛せられても解き易い、脆弱《ぜいじゃく》なる索に対する、戒心を弛廃《しはい》させた。
無智なる、可憐《かれん》なるお雪さんは、この破壊この弛廃を敢《あえ》てして自ら曉《さと》らないのである。
もしお雪さんが来なかったら、己は部屋を出るとき、ラシイヌを持って出なかっただろう。
己はラシイヌを手に持って、当てもなく上野の山をあちこち歩き廻っているうちに、不安の念が次第に増長して来て、脈搏《みゃくはく》の急になるのを感じた。丁度酒の酔《えい》が循《めぐ》って来るようであった。
公園の入口まで来て、何となく物騒がしい広小路の夕暮を見渡していたとき、己は熱を病んでいるように、気が遠くなって、脚が体の重りに堪えないようになった。
何を思うともなしに引き返して、弁天へ降りる石段の上まで来て、又立ち留まった。ベンチの明いているのが一つあるので、それに腰を掛けて、ラシイヌを翻《ひるがえ》して見たが、もうだいぶ昏《くら》くて読めない。無意味に引っ繰り返して、題号なんぞの大きい活字を拾
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