青年
森鴎外

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)芝日蔭町《しばひかげちょう》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)新橋|停留場《ていりゅうば》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「革+疆のつくり」、第3水準1−93−81、17−12]
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     壱

 小泉純一は芝日蔭町《しばひかげちょう》の宿屋を出て、東京方眼図を片手に人にうるさく問うて、新橋|停留場《ていりゅうば》から上野行の電車に乗った。目まぐろしい須田町《すだちょう》の乗換も無事に済んだ。さて本郷三丁目で電車を降りて、追分《おいわけ》から高等学校に附いて右に曲がって、根津権現《ねづごんげん》の表坂上にある袖浦館《そでうらかん》という下宿屋の前に到着したのは、十月二十何日かの午前八時であった。
 此処《ここ》は道が丁字路になっている。権現前から登って来る道が、自分の辿《たど》って来た道を鉛直に切る処《ところ》に袖浦館はある。木材にペンキを塗った、マッチの
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