は此前にあるかも知れぬが、己は見ない。バルザツク、フロオベル、ゾラと数へて来ると、ルモンニエエの名は自然に唇に上《のぼ》る。それが冷遇せられて、丁度フランスのモオパツサンなどと同じやうに、ベルジツクでマアテルリンクだけが喧伝せられてゐるのは遺憾である。此訳文には頗る大胆な試みがしてある。傍看者から云つたら、乱暴な事かも知れない。それは訳文が一字脱けた、一行脱けたと細かに穿鑿する世の中に、こゝでは或は十行、或は二三十行づゝ、二三箇所削つてあることである。訳者は却つてこれがために、物語の効果が高まつたやうに感じて居るが、原文を知つてゐる他人がそれに同意するか否かは疑問である。一九一三年十月二十八日記す。
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初出:「聖ニコラウスの夜」大正二年一一―一二月「三田文学」四ノ一一―一二
原題(独訳):Sankt Nikolaus bei den Schiffern.
原作者:Antoine Louis Camille Lemonnier, 1844−1913.
翻訳原本:Der Zeitgeist; Beiblatt zum Berliner Tageblatt. 7. Juli; 14. Juli 1913.

底本:「鴎外選集 第十四巻」岩波書店
   1979(昭和54)年12月19日
入力:tatsuki
校正:しず
2001年10月25日公開
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