宗の寵を得たには、両性問題は容易《たやす》く理を以て推《すゐ》すべからざるものだとは云ひながら、品の人物に何か特別なアトラクシヨンがなくては※[#「りっしんべん+(はこがまえ<夾)」、第3水準1−84−56]《かな》はぬやうである。それゆゑ私は、単に品が高尾でないと云ふ事実、即ち疾《と》うの昔に大槻さんが遺憾なく立証してゐる事実を、再び書いて世間に出さうと云ふためばかりでなく、椙原品《すぎのはらしな》と云ふ女を一の問題としてこゝに提供したのである。

      四

 品の家世はどうであるか。播磨《はりま》の赤松家の一族に、椙原伊賀守賢盛《すぎのはらいがのかみかたもり》と云ふ人があつた。後に薙髪《ちはつ》して宗伊《そうい》と云つた人である。それが椙原を名告《なの》つたのは、住んでゐた播磨の土地の名に本づいたのである。賢盛の後裔に新左衛門守範《しんざゑもんもりのり》と云ふ人があつた。守範は赤松氏の亡《ほろ》びた時に浪人になつて江戸に出て、明暦三年の大火に怪我をして死んださうである。赤松氏の亡びた時とは、恐らくは赤松則房《あかまつのりふさ》が阿波《あは》で一万石を食《は》んでゐて、関が原
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