ぐてる》は三之内《さんのうち》に遷《うつ》った。

   その九十

 抽斎歿後の第十三年は明治四年である。成善《しげよし》は母を弘前に遺《のこ》して、単身東京に往《ゆ》くことに決心した。その東京に往こうとするのは、一には降等に遭《あ》って不平に堪えなかったからである。二には減禄の後《のち》は旧に依《よ》って生計を立てて行くことが出来ぬからである。その母を弘前に遺すのは、脱藩の疑《うたがい》を避けんがためである。
 弘前藩は必ずしも官費を以て少壮者を東京に遣ることを嫌わなかった。これに反して私費を以て東京に往こうとするものがあると、藩は已《すで》にその人の脱藩を疑った。いわんや家族をさえ伴おうとすると、この疑は益《ますます》深くなるのであった。
 成善が東京に往こうと思っているのは久しい事で、しばしばこれを師|兼松石居《かねまつせききょ》に謀《はか》った。石居は機を見て成善を官費生たらしめようと誓った。しかし成善は今は徐《しずか》にこれを待つことが出来なくなったのである。
 さて成善は私費を以て往くことを敢《あえ》てするのであるが、なお母だけは遺して置くことにした。これはやむことをえぬ
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