ている。銓はまだ泣いている。妻《さい》の出た跡で、更に酒を呼んだ宗右衛門は、気味の悪い笑顔《えがお》をして五百を迎える。五百は徐《しずか》に詫言《わびごと》を言う。主人はなかなか聴《き》かない。暫《しばら》く語を交えている間に、主人は次第に饒舌《じょうぜつ》になって、光※[#「諂のつくり+炎」、第3水準1−87−64]万丈《こうえんばんじょう》当るべからざるに至った。宗右衛門は好んで故事を引く。偽書《ぎしょ》『孔叢子《こうそうし》』の孔氏三世妻を出《いだ》したという説が出る。祭仲《さいちゅう》の女《むすめ》雍姫《ようき》が出る。斎藤太郎左衛門《さいとうたろうざえもん》の女《むすめ》が出る。五百はこれを聞きつつ思案した。これは負けていては際限がない。例《ためし》を引いて論ずることなら、こっちにも言分《いいぶん》がないことはない。そこで五百も論陣を張って、旗鼓《きこ》相当《あいあた》った。公父《こうふ》文伯《ぶんはく》の母|季敬姜《きけいきょう》を引く。顔之推《がんしすい》の母を引く。終《つい》に「大雅思斉《たいがしせい》」の章の「刑干寡妻《かさいをただし》、至干兄弟《けいていにいたり》、
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