うことは想い遣られる。牧は特に悍《かん》と称すべき女でもなかったらしいが、とにかく三つの年上であって、世故《せいこ》にさえ通じていたから、くみが啻《ただ》にこれを制することが難かったばかりでなく、動《やや》もすればこれに制せられようとしたのも、固《もと》より怪《あやし》むに足らない。
 既にしてくみは栄次郎を生み、安を生み、五百を生んだが、次《つい》で文化十四年に次男某を生むに当って病に罹《かか》り、生れた子と倶《とも》に世を去った。この最後の産の前後の事である。くみは血行の変動のためであったか、重聴《じゅうちょう》になった。その時牧がくみの事を度々《たびたび》聾者《つんぼ》と呼んだのを、六歳になった栄次郎が聞き咎《とが》めて、後《のち》までも忘れずにいた。
 五百は六、七歳になってから、兄栄次郎にこの事を聞いて、ひどく憤《いきどお》った。そして兄にいった。「そうして見ると、わたしたちには親の敵《かたき》がありますね。いつか兄《に》いさんと一しょに敵《かたき》を討とうではありませんか」といった。その後《のち》五百は折々|箒《ほうき》に塵払《ちりはらい》を結び附けて、双手《そうしゅ》の如
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