宿を貸すことを差し止めた。人買いをつかまえることは、国守の手に合わぬと見える。気の毒なは旅人じゃ。そこでわしは旅人を救うてやろうと思い立った。さいわいわしが家は街道《かいどう》を離れているので、こっそり人を留めても、誰に遠慮もいらぬ。わしは人の野宿をしそうな森の中や橋の下を尋ね廻って、これまで大勢の人を連れて帰った。見れば子供衆が菓子を食べていなさるが、そんな物は腹の足しにはならいで、歯に障《さわ》る。わしがところではさしたる饗応《もてなし》はせぬが、芋粥《いもがゆ》でも進ぜましょう。どうぞ遠慮せずに来て下されい」男は強《し》いて誘うでもなく、独語《ひとりごと》のように言ったのである。
 子供の母はつくづく聞いていたが、世間の掟にそむいてまでも人を救おうというありがたい志に感ぜずにはいられなかった。そこでこう言った。「承われば殊勝なお心がけと存じます。貸すなという掟のある宿を借りて、ひょっと宿主《やどぬし》に難儀をかけようかと、それが気がかりでございますが、わたくしはともかくも、子供らに温《ぬく》いお粥《かゆ》でも食べさせて、屋根の下に休ませることが出来ましたら、そのご恩はのちの世まで
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