ったら、わたしを二人前働かせようとするでしょう。お前の教えてくれた木立ちの所で、わたしは柴をたくさん苅ります。六荷までは苅れないでも、四荷でも五荷でも苅りましょう。さあ、あそこまで降りて行って、籠や鎌をあそこに置いて、お前を麓へ送って上げよう」こう言って安寿は先に立って降りて行く。
厨子王はなんとも思い定めかねて、ぼんやりしてついて降りる。姉は今年十五になり、弟は十三になっているが、女は早くおとなびて、その上物に憑《つ》かれたように、聡《さと》く賢《さか》しくなっているので、厨子王は姉の詞にそむくことが出来ぬのである。
木立ちの所まで降りて、二人は籠と鎌とを落ち葉の上に置いた。姉は守本尊を取り出して、それを弟の手に渡した。「これは大事なお守だが、こんど逢うまでお前に預けます。この地蔵様をわたしだと思って、護り刀と一しょにして、大事に持っていておくれ」
「でも姉えさんにお守がなくては」
「いいえ。わたしよりはあぶない目に逢うお前にお守を預けます。晩にお前が帰らないと、きっと討手《うって》がかかります。お前がいくら急いでも、あたり前に逃げて行っては、追いつかれるにきまっています。さっき
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