[#「木+(たけかんむり/高)」、第3水準1−86−26]《さお》で岸を一押し押すと、舟は揺《ゆら》めきつつ浮び出た。

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 山岡大夫はしばらく岸に沿うて南へ、越中境《えっちゅうざかい》の方角へ漕《こ》いで行く。靄《もや》は見る見る消えて、波が日にかがやく。
 人家のない岩蔭に、波が砂を洗って、海松《みる》や荒布《あらめ》を打ち上げているところがあった。そこに舟が二|艘《そう》止まっている。船頭が大夫を見て呼びかけた。
「どうじゃ。あるか」
 大夫は右の手を挙げて、大拇《おやゆび》を折って見せた。そして自分もそこへ舟を舫《もや》った。大拇だけ折ったのは、四人あるという相図《あいず》である。
 前からいた船頭の一人は宮崎の三郎といって、越中宮崎のものである。左の手の拳《こぶし》を開いて見せた。右の手が貨《しろもの》の相図になるように、左の手は銭の相図になる。これは五貫文につけたのである。
「気張るぞ」と今一人の船頭が言って、左の臂《ひじ》をつと伸べて、一度拳を開いて見せ、ついで示指《ひとさしゆび》を竪《た》てて見せた。この男は佐渡の二郎で六貫文につけた
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