ソロドフニコフは肩を聳やかして叫んだ。そして室内の空気が稠厚《ちうこう》になつて来て、頭痛のし出すのを感じた。
「いゝえ。死刑だつて或る法則に循《したが》つて行はれるものです。その法則が自然から出てゐたつて、自然以外の或る威力から出てゐたつて、同じ事です。そして自然以外の威力は可抗力なのに、自然は不可抗力ですから、猶更堪へ難いのです。」
「それはさうです。併し我々は死ぬる月日は知らないのですからね」と、学士は不精不精に譲歩した。
「それはさうです」とゴロロボフは承認して置いて、それからかう云つた。「併し死刑の宣告を受けた人は、処刑の日を前知してゐる代りには、いよいよ刑に逢ふまで、若し赦免になりはすまいか、偶然助かりはすまいか、奇蹟がありはすまいかなんぞと思つてゐるのです。死の方になると、誰も永遠に生きられようとは思はないのです。」
「併し誰でもなる丈長く生きようと思つてゐますね。」
「そんな事は出来ません。人の一生涯は短いものです。其に生きようと思ふ慾は大いのです。」
「誰でもさうだと云ふのですか」と、嘲笑を帯びて、ソロドフニコフは問うた。そして可笑しくもない事を笑つたのが、自分ながら
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