落だ」と、ソロドフニコフは云つた。そしてポケツトから葉巻入れを出して、葉巻に一本火を附けて帰らうとした。
その時ゴロロボフが云つた。「わたくしが昔から人の言はない、新しいことを言はなくてはならないといふ道理はございません。わたくしはたゞ正しい思想を言ひ表せば宜しいと思ひます。」
「ふん。なる程」と、ソロドフニコフは云つて、今の場合に、正しい思想といふことが云はれるだらうかと、覚えず考へて見た。それから「それは無論の事さ」と云つたが、まだ疑が解けずにゐた。さて「併し死に親むまでにはたつぷり時間があるから、その間に慣れれば好いのです」と結んだ。かう云つて見たが、どうも自分の言ふべき筈の事を言つたやうな心持がしないので、自分に対してではなく、却つて見習士官に対して腹を立てた。
「わたくしの考へでは、それは死刑の宣告を受けた人に取つては、慰藉とする価値が乏しいやうです。宣告を受けた人は刑せられる時の事しか思つてゐないでせう。」かう云つて置いて、さも相手の意見を聞いて見たいといふやうな顔をして学士を見ながら、語り続けた。その表情が顔の恰好に妙に不似合に見えた。
「それとも先生はさうでないとお思
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