に申し出た。両隊の兵卒一同は小頭《こがしら》池上|弥三吉《やさきち》、大石甚吉を以て、両隊長に勤事控の見舞を言わせた。両隊長は長尾に申し出た趣意を配下に諭《さと》した。
 そのうち京都から土佐藩の歩兵三小隊が到着して、長堀の藩邸を警固して厳重に人の出入を誰何《すいか》することになった。
 次いで前土佐藩主山内土佐守|豊信《とよしげ》の名代として、家老深尾|鼎《かなえ》が大目附小南五郎右衛門と共に到着した。これは大阪に碇泊《ていはく》しているフランス軍艦Venus[#「e」はアクサン(´)付き]《ヴェニュス》号から、公使Leon[#「e」はアクサン(´)付き]《レオン》 Roche《ロッシュ》が外国事務係へ損害要償の交渉をしたためである。公使の要求は直ちに朝議の容《い》るるところとなった。土佐藩主が自らヴェニュス号に出向いて謝罪することが一つ。堺で土佐藩の隊を指揮した士官二人、フランス人を殺害《せつがい》した隊の兵卒二十人を、交渉文書が京都に着いた後三日以内に、右の殺害を加えた土地に於《お》いて死刑に処することが二つ。殺害せられたフランス人の家族の扶助《ふじょ》料として、土佐藩主が十五万
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