軍監府では河内《かわち》、大和《やまと》辺から、旧幕府の役人の隠れていたのを、七十三人捜し出して、先例によって事務を取り扱わせた。市中は間もなく秩序を恢復《かいふく》して、一旦|鎖《とざ》された芝居の木戸も、又開かれるようになった。
二月十五日の事である。フランスの兵が大阪から堺へ来ると云うことを、町年寄が聞き出して軍監府へ訴え出た。横浜に碇泊《ていはく》していた外国軍艦十六|艘《そう》が、摂津の天保山沖《てんぽうざんおき》へ来て投錨《とうびょう》した中に、イギリス、アメリカと共に、フランスのもあったのである。杉は六番、八番の両隊長を呼び出して、大和橋へ出張することを命じた。フランスの兵が若《も》し官許を得て通るのなら、前以て外国事務係前宇和島藩主|伊達伊予守宗城《だていよのかみむねき》から通知がある筈であるに、それが無い。よしや通知が間に合わぬにしても、内地を旅行するには免状を持っていなくてはならない。持っていないなら、通すには及ばない。杉は生駒と共に二隊の兵を随《したが》えて大和橋を扼《やく》して待っていた。そこへフランスの兵が来掛かった。その連れて来た通弁に免状の有無を問わせる
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