れから七つ目の子《ね》を以て[#「以て」は底本では「似て」]名となしたのである。二代目津藤として出藍《しゅつらん》の誉《ほまれ》をいかがわしい境に馳せた香以散人はこの子之助である。
三
わたくしが香以の名を聞いたのは、彼《かの》人情本によって津藤の名を聞いたのと、余り遅速は無かったらしい。否《いな》あるいは同時であったかも知れない。その後にはこの名のわたくしの耳目に触れたことが幾度《いくたび》であったか知れぬが、わたくしは始終深く心に留めずに、忽《たちま》ち聞き忽ち忘れていた。そしてその間《あいだ》竜池香以の父子を混同していた。
それからある時香以と云う名が、わたくしの記憶に常住することになった。それは今住んでいる団子坂の家に入った時からの事である。
この家は香以に縁故のある家で、それを見出したのは当時存命していたわたくしの父である。父は千住で医業をしていたが、それを廃《や》めてわたくしと同居しようとおもった。そして日々家を捜して歩いた。その時この家は眺望の好《い》い家として父の目に止まった。
団子坂上から南して根津権現の裏門に出る岨道《そばみち》に似た小径《
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