慶応三年に辻花雪三回忌の影画合《かげえあわせ》「くまなきかげ」が刊行せられて、香以は自らこれに序した。巻中の香以の影画には上《かみ》に引いた「針持つて」の句の短冊が貼《お》してある。わたくしの看たこの書は文淵堂の所蔵である。
 明治元年に山城河岸の店は鎖《とざ》された。当時香以の姉夫《あねむこ》は細木伊三郎と称して、山王町に書肆《しょし》を開いていた。山王町は今の宋十郎町である。香以はふさと慶次郎とを連れて、この伊三郎方に同居した。時に年四十七であった。
 明治三年九月に香以は病に臥して、十日に瞑目《めいもく》した。年四十九。法諡《ほうし》は梅余香以居士。願行寺なる父祖の塋域《えいいき》に葬られた。遺稿の中に。
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冬枯れてゐたは貴様か梅の花
紅梅に雪も好けれど加減もの
只遊ぶ萍《うきくさ》も経る月日かな
つごもりや由なき芥子《けし》の花あかり
盗まれむ葱《ねぎ》も作りて後の月
待事のありげに残る蚤《のみ》蚊《か》かな
値《ね》の高い水に砂吐く蜆《しゞみ》かな
地に著かぬ中ぞ長閑《のど》けき舞ふ木葉
 自像
花に売る一本物や江戸鰹《えどがつを》
 自傲《じごう》

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