てあつた白紙が殘少になつた。しかしとう/\一番鷄の啼く頃に願書が出來た。
 願書を書いてゐるうちに、まつが寐入つたので、いちは小聲で呼び起して、床の傍に疊んであつた不斷着に著更へさせた。そして自分も支度をした。
 女房と初五郎とは知らずに寐てゐたが、長太郎が目を醒まして、「ねえさん、もう夜が明けたの」と云つた。
 いちは長太郎の床の傍へ往つてささやいた。「まだ早いから、お前は寐ておいで。ねえさん達は、お父つさんの大事な御用で、そつと往つて來る所があるのだからね。」
「そんならおいらも往く」と云つて、長太郎はむつくり起き上がつた。
 いちは云つた。「ぢやあ、お起《おき》、著物を著せて上げよう。長さんは小さくても男だから、一しよに往つてくれれば、其方が好いのよ」と云つた。
 女房は夢のやうにあたりの騷がしいのを聞いて、少し不安になつて寢がへりをしたが、目は醒めなかつた。
 三人の子供がそつと家を拔け出したのは、二番鷄の啼く頃であつた。戸の外は霜の曉であつた。提灯を持つて、拍子木を敲《たゝ》いて來る夜廻の爺いさんに、お奉行樣の所へはどう往つたら往かれようと、いちがたづねた。爺いさんは親切な、
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