章の身邊には家來が何人位ゐたか、又武具があつたかと問うた。二人の答は、家來は二十人ばかりゐて、我等の前後左右を取り卷き、武具も出してあつたと云ふことであつた。忠之は城内|焚火《たきび》の間《ま》で、使の此《この》答を聞いてゐたが、思ひ定めたらしい氣色《けしき》で、兎《と》に角《かく》栗山が邸へ押し懸《か》けて往くから、一同用意せいと云ひ棄てゝ奥に入つた。諸侍は家々へ武具を取りに遣る。噂《うはさ》は忽《たちま》ち城下に廣《ひろ》まつて、番頭組《ばんがしらぐみ》の者や若侍は次第に利章が邸の前へ詰め懸けた。此時老臣の中で、當時|道柏《だうはく》と名告《なの》つてゐた井上|周防之房《すはうこれふさ》と、小河内藏允《をがうくらのじよう》との二人が、忠之の袂《たもと》に縋《すが》つて、それは餘り輕々しい、江戸へ聞こえても如何《いかが》である、利章をば我々が受け合つてどうにも處置しよう、切腹させよとなら切腹もさせようと云つて諫《いさ》めた。忠之はやうやう靜まつた。井上、小河の二人は次へ出て、利章方へ一人たりとも參つてはならぬと觸れ、利章の邸の前に往つてゐた者共を、利章の姉婿《あねむこ》で、當時|睡鴎
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