空車
森鴎外

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)誰《たれ》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「禾+(囗<禾)」、第4水準2−82−91]
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 むなぐるまは古言である。これを聞けば昔の絵巻にあるような物見車が思い浮かべられる。
 すべて古言はその行われた時と所との色を帯びている。これをそのままにとって用いるときは、誰《たれ》もその間に異議をはさむことはできない。しかしそうばかりしていると、そのことばの用いられる範囲がせばめられる。この範囲はアルシャイスムの領分を限る線によって定められる。そしてそのことばは擬古文の中にしか用いられぬことになる。
 これは窮屈である。さらに一歩を進めて考えてみると、この窮屈はいっそう甚だしくなってくる。なぜであるか。いまむなぐるまということばを擬古文に用いるには異議がないものとする。ところで擬古文でさえあるなら、文の内容がなんであろうと、古言を用いていいかというに、必ずしもそうでない。文体にふさわしくない内容
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