七日|兼田弥一右衛門《かねたやいちえもん》とともに、御当家|攻口《せめくち》の一番乗と名告り、海に臨める城壁の上にて陣亡いたし候。法名を義心英立居士《ぎしんえいりゅうこじ》と申《もうし》候《そろ》。
 某《それがし》は文禄《ぶんろく》四(三)年景一が二男に生れ、幼名才助と申候。七歳の時父につきて豊前国小倉へ参り、慶長十七年十九歳にて三斎公に召しいだされ候。元和七年三斎公致仕遊ばされ候時、父も剃髪いたし候《そうら》えば、某二十八歳にて弥五右衛門景吉《やごえもんかげよし》と名告り、三斎公の御供いたし候て、豊前国興津に参り候。
 寛永元年五月|安南船《あんなんせん》長崎に到着候時、三斎公は御薙髪《ごていはつ》遊ばされ候てより三年目なりしが、御茶事《おんちゃじ》に御用《おんもち》いなされ候珍らしき品買い求め候様|仰《おおせ》含められ、相役《あいやく》横田清兵衛と両人にて、長崎へ出向き候。幸なる事には異なる伽羅《きゃら》の大木渡来いたしおり候。然《しか》るところその伽羅に本木《もとき》と末木《うらき》との二つありて、はるばる仙台より差下《さしくだ》され候|伊達権中納言《だてごんちゅうなごん》殿の役人ぜひとも本木の方を取らんとし、某も同じ本木に望を掛け互にせり合い、次第に値段をつけ上《あ》げ候。
 その時横田|申《もうし》候《そろ》は、たとい主命なりとも、香木《こうぼく》は無用の翫物《がんぶつ》に有之《これあり》、過分の大金を擲《なげう》ち候《そろ》事《こと》は不可然《しかるべからず》、所詮《しょせん》本木を伊達家に譲り、末木を買求めたき由《よし》申候。某《それがし》申候は、某は左様には存じ申さず、主君の申つけられ候は、珍らしき品を買い求め参れとの事なるに、このたび渡来|候《そろ》品の中にて、第一の珍物はかの伽羅に有之、その木に本末あれば、本木の方が尤物《ゆうぶつ》中の尤物たること勿論《もちろん》なり、それを手に入れてこそ主命を果すに当るべけれ、伊達家《だてけ》の伊達を増長|致《いた》させ、本木を譲り候《そろ》ては、細川家の流《ながれ》を涜《けが》す事と相成り申すべくと申|候《そろ》。横田|嘲笑《あざわら》いて、それは力瘤《ちからこぶ》の入れどころが相違せり、一国一城を取るか遣《や》るかと申す場合ならば、飽《あ》くまで伊達家に楯《たて》をつくがよろしからん、高が四畳半の炉《ろ》にくべらるる木の切れならずや、それに大金を棄《す》てんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われ候《そうら》わば、臣下として諫《いさ》め止《とど》め申すべき儀《ぎ》なり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召《おぼしめ》されんとも、それを遂げさせ申す事、阿諛便佞《あゆべんねい》の所為《しょい》なるべしと申|候《そろ》。当時三十一歳の某《それがし》、この詞《ことば》を聞きて立腹致し候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条《もうしじょう》なり、さりながら某はただ主命と申《もうす》物《もの》が大切なるにて、主君あの城を落せと仰《おお》せられ候わば、鉄壁なりとも乗り取り申すべく、あの首を取れと仰せられ候わば、鬼神なりとも討ち果たし申すべくと同じく、珍らしき品を求め参れと仰せられ候えば、この上なき名物を求めん所存なり、主命たる以上は、人倫の道に悖《もと》り候事は格別、その事柄に立入り候批判がましき儀は無用なりと申候。横田いよいよ嘲笑《あざわら》いて、お手前とてもその通り道に悖《もと》りたる事はせぬと申さるるにあらずや、これが武具などならば、大金に代《か》うとも惜しからじ、香木に不相応なる価《あたい》をいださんとせらるるは若輩《じゃくはい》の心得ちがいなりと申候。某申候は、武具と香木との相違は某若輩ながら心得居る、泰勝院殿《たいしょういんでん》の御代《おんだい》に、蒲生《がもう》殿申され候《そろ》は、細川家には結構なる御道具あまた有之《これある》由《よし》なれば拝見に罷出《まかりい》ずべしとの事なり、さて約束せられし当日に相成り、蒲生殿参られ候《そろ》に、泰勝院殿は甲冑《かっちゅう》刀剣|弓《ゆみ》鎗《やり》の類を陳《つら》ねて御見せなされ、蒲生殿意外に思《おぼ》されながら、一応御覧あり、さて実は茶器拝見致したく参上したる次第なりと申され、泰勝院殿御笑いなされ、先きには道具と仰《おお》せられ候故、武家の表道具を御覧に入れたり、茶器ならば、それも少々持合せ候とて、はじめて御取《おんと》り出《いだ》しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能《たんのう》に渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀《さいし》も総《すべ》て虚礼なるべし、我等《われら》この度《たび》
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