手を高くさし伸べた。
一本腕はあっけに取られて見ている。
爺いさんは左の手を開いた。指の間に小さい物を挟んでいる。不思議にも、その小さい物が、この闇夜に漏れて来る一切の光明を、ことごとく吸収して、またことごとく反射するようである。
爺いさんは云った。「なんだか知っているかい。これは青|金剛石《ダイアモンド》と云う物だ。世界に二つと無い物で、もう盗まれてから大ぶの年が立つ。それを盗んだのはおれだ。世界中捜しても知れない。おれが持っている。おれが盗んだのだ。なんでもふいと盗んだのだ。その時の事はもう精《くわ》しくは知っていない。忘れてしまった。とにかくその青金剛石はおれが持っている。世界に二つとない正真正銘の青金剛石だ。世界中捜しても見附からないはずだ。乞食の靴の中に這入っている。誰にだって分からなかろう。誰にだってなあ。ははは。何百万と云う貨物《しろもの》が靴の中にあるのだ。」
一本腕は無意識に手をさし伸べて、爺いさんの左の手に飛び附こうとした。
「手を引っ込めろ。」爺いさんはこう云って、一歩退いた。そして左の手を背後《うしろ》へ引いて、右の手を隠しから出した。きらきらと光る小刀
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