》は一本腕の癪《しゃく》に障った。「なに。ぬすっとだ。口で言うのは造做《ぞうさ》はないや。だが何を盗むのだ。誰の物を盗むのだ。盗むにはいろいろ道具もいるし、それに折も見計わなくちゃならない。修行しなくちゃ出来ない商売だ。そればかりじゃないや。第一おれには不気味で出来ねえ。実は小さい時おれに盗みを教え込もうとした奴があったのだ。だが、どうも不気味だよ。そうは云うものの、おめえ何か旨い為事《しごと》があるのなら、おれだって一口乗らねえにも限らねえ。やさしい為事だなあ。ちょいとしゃがめば、ちょいと手に攫《つか》めると云う為事で、あぶなげのないのでなくちゃ厭だ。そう云う旨い為事があるのかい。福の神の髻《たぶさ》を攫んで放さないと云う為事だ。どうかすると、おめえそんなのを一週間に一度ずつこっそりやるのかも知れねえが。」一本腕はこう云って、顔をくしゃくしゃにして笑った。
 爺いさんは真面目に相手の顔を見返して、腰を屈めて近寄った。そして囁《ささや》いた。「おれは盗んだのだ。何百万と云う貨物《しろもの》を盗んだ。おれはミリオネエルだ。そのくせかつえ死ななくてはならないのだ。」
 一本腕は目を大きく※
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