ているうちに、気が落ち着いた。一本腕は肩を聳《そびや》かした。「馬鹿爺い奴《め》。どこへでも往きゃあがれ。いずれ四文もしないガラス玉か何かだろう。あんな手品に乗って気を揉んだのは、馬鹿だった。」こう云って一本腕はいつもの穴にもぐり込んだ。
 爺いさんは鼠色の影のようにその場を立ち去った。そして間もなく雪に全身を包まれて、外の寝所を捜しに往く。深い雪を踏む、静かなさぐり足が、足音は立てない。破れた靴の綻《ほころ》びからは、雪が染み込む。



底本:「諸国物語(上)」ちくま文庫、筑摩書房
   1991(平成3)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鴎外全集」岩波書店
   1971(昭和46)年11月〜1975(昭和50)年6月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2007年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング