るように思った。そして同班の卒数人と共に、※[#「金+插のつくり」、第3水準1−93−28]《すき》を持って咸宜観に突入して、穴の底を掘った。緑翹の屍は一尺に足らぬ土の下に埋まっていたのである。
 京兆《けいちょう》の尹《いん》温璋《おんしょう》は衙卒の訴に本《もと》づいて魚玄機を逮捕させた。玄機は毫《ごう》も弁疏《べんそ》することなくして罪に服した。楽人陳某は鞠問《きくもん》を受けたが、情を知らざるものとして釈《ゆる》された。
 李億を始《はじめ》として、かつて玄機を識っていた朝野の人士は、皆その才を惜んで救おうとした。ただ温岐一人は方城の吏になって、遠く京師《けいし》を離れていたので、玄機がために力を致すことが出来なかった。
 京兆の尹は、事が余りにあらわになったので、法を枉《ま》げることが出来なくなった。立秋の頃に至って、遂《つい》に懿宗《いそう》に上奏して、玄機を斬《ざん》に処した。

       ――――――――――――――――――――

 玄機の刑せられたのを哀むものは多かったが、最も深く心を傷めたものは、方城にいる温岐であった。
 玄機が刑せられる二年前に、温は流離して
前へ 次へ
全29ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング