。何気なく見える女の顔を、玄機は甚だしく陰険なように看取した。玄機は突然起って扉に鎖《じょう》を下した。そして震《ふる》う声で詰問しはじめた。女はただ「存じません、存じません」と云った。玄機にはそれが甚しく狡獪《こうかい》なように感ぜられた。玄機は床の上に跪《ひざまず》いている女を押し倒した。女は懾《おそ》れて目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》っている。「なぜ白状しないか」と叫んで玄機は女の吭《のど》を扼《やく》した。女はただ手足をもがいている。玄機が手を放して見ると、女は死んでいた。
――――――――――――――――――――
玄機の緑翹を殺したことは、やや久しく発覚せずにいた。殺した翌日陳の来た時には、玄機は陳が緑翹の事を問うだろうと予期していた。しかし陳は問わなかった。玄機がとうとう「あの緑翹がゆうべからいなくなりましたが」と云って陳の顔色を覗《うかが》うと、陳は「そうかい」と云っただけで、別に意に介せぬらしく見えた。玄機は前夜のうちに観の背後《うしろ》に土を取った穴のある処へ、緑翹の屍《かばね》を抱いて往って、穴の中へ推し墜《おと》して、上
前へ
次へ
全29ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング