己《おれ》は随分人に馬鹿にせられ通しに馬鹿にせられて、世の中を渡ったものだ。だがな、人を騙すよりは、人に騙されている方が、気が安い。なんの商売をしても、人に不義理をしないように、恩になった人を大事にするようにしていなくてはならないぜ」
「大丈夫よ。お父っさんがいつも、たあ坊は正直だからとそう云ったでしょう。わたくし全く正直なの。ですけれど、この頃つくづくそう思ってよ。もう人に騙されることだけは、御免を蒙《こうむ》りたいわ。わたくし嘘を衝いたり、人を騙したりなんかしない代《かわり》には、人に騙されもしない積なの」
「そこで檀那の言うことも、うかとは信用しないと云うのかい」
「そうなの。あの方はわたくしをまるで赤ん坊のように思っていますの。それはあんな目から鼻へ抜けるような人ですから、そう思うのも無理はないのですけれど、わたくしこれでもあの人の思う程赤ん坊ではない積なの」
「では何かい。何かこれまで檀那の仰《おっし》ゃった事に、本当でなかった事でもあったのを、お前が気が附いたとでも云うのかい」
「それはあってよ。あの婆あさんが度々そう云ったでしょう。あの人は奥さんが子供を置いて亡くなったの
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