、ことが出来なかった。檀那の前では間の悪いような風はしていても、言おうとさえ思えば、どんな事でも言われぬことは無い。それに岡田さんにはなぜ声が掛けられなかったのだろう。あんなにお世話になったのだから、お礼を言うのは当前《あたりまえ》だ。それがきょう言われぬようでは、あの方に物を言う折は無くなってしまうかも知れない。梅を使にして何か持たせて上げようと思っても、それは出来ず、お目に掛かっても、物を言うことが出来なくては、どうにも為様《しよう》がなくなってしまう。一体わたしはあの時なぜ声が出なかったのだろう。そう、そう。あの時わたしは慥《たし》かに物を言おうとした。唯何と云って好《よ》いか分からなかったのだ。「岡田さん」と馴々しく呼び掛けることは出来ない。そんならと云って、顔を見合せて「もしもし」とも云いにくい。ほんにこう思って見ると、あの時まごまごしたのも無理はない。こうしてゆっくり考えて見てさえ、なんと云って好《い》いか分からないのだもの。いやいや。こんな事を思うのは矢《や》っ張《ぱり》わたしが馬鹿なのだ。声なんぞを掛けるには及ばない。すぐに外へ駆け出せば好かったのだ。そうしたら岡田さん
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