「のである。
「何か刃物はありませんか」と岡田は云った。主人の女が一人の小娘に、「あの台所にある出刃を持ってお出《い》で」と言い附けた。その娘は女中だったと見えて、稽古に隣へ来ていると云う外の娘達と同じような湯帷子《ゆかた》を着た上に紫のメリンスでくけた襷《たすき》を掛けていた。肴《さかな》を切る庖刀《ほうちょう》で蛇を切られては困るとでも思ったか、娘は抗議をするような目附きをして主人の顔を見た。「好いよ、お前の使うのは新らしく買って遣《や》るから」と主人が云った。娘は合点が行ったと見えて、駆けて内へ這入って出刃庖刀を取って来た。
岡田は待ち兼ねたようにそれを受け取って、穿《は》いていた下駄を脱ぎ棄てて、肱掛窓《ひじかけまど》へ片足を掛けた。体操は彼の長技である。左の手はもう庇の腕木を握っている。岡田は庖刀が新しくはあっても余り鋭利でないことを知っていたので、初から一撃に切ろうとはしない。庖刀で蛇の体を腕木に押し附けるようにして、ぐりぐりと刃を二三度前後に動かした。蛇の鱗《うろこ》の切れる時、硝子《がらす》を砕くような手ごたえがした。この時蛇はもう羽を銜えていた鳥の頭を頬のうちに手繰
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