安《ちやうあん》にゐた時《とき》から、台州《たいしう》に著《つ》いたら早速《さつそく》往《ゆ》かうと極《き》めてゐたのである。
何《なん》の用事《ようじ》があつて國清寺《こくせいじ》へ往《ゆ》くかと云《い》ふと、それには因縁《いんねん》がある。閭《りよ》が長安《ちやうあん》で主簿《しゆぼ》の任命《にんめい》を受《う》けて、これから任地《にんち》へ旅立《たびだ》たうとした時《とき》、生憎《あいにく》こらへられぬ程《ほど》の頭痛《づつう》が起《おこ》つた。單純《たんじゆん》なレウマチス性《せい》の頭痛《づつう》ではあつたが、閭《りよ》は平生《へいぜい》から少《すこ》し神經質《しんけいしつ》であつたので、掛《か》かり附《つけ》の醫者《いしや》の藥《くすり》を飮《の》んでもなか/\なほらない。これでは旅立《たびだち》の日《ひ》を延《の》ばさなくてはなるまいかと云《い》つて、女房《にようばう》と相談《さうだん》してゐると、そこへ小女《こをんな》が來《き》て、「只今《たゞいま》御門《ごもん》の前《まへ》へ乞食坊主《こじきばうず》がまゐりまして、御主人《ごしゆじん》にお目《め》に掛《か》かりたいと
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