道翹《だうげう》は蛛《くも》の網《い》を拂《はら》ひつゝ先《さき》に立《た》つて、閭《りよ》を豐干《ぶかん》のゐた明家《あきや》に連《つ》れて行《い》つた。日《ひ》がもう暮《く》れ掛《か》かつたので、薄暗《うすくら》い屋内《をくない》を見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《みまは》すに、がらんとして何《なに》一つ無《な》い。道翹《だうげう》は身《み》を屈《かゞ》めて石疊《いしだゝみ》の上《うへ》の虎《とら》の足跡《あしあと》を指《ゆび》さした。偶《たま/\》山風《やまかぜ》が窓《まど》の外《そと》を吹《ふ》いて通《とほ》つて、堆《うづたか》い庭《には》の落葉《おちば》を捲《ま》き上《あ》げた。其《その》音《おと》が寂寞《せきばく》を破《やぶ》つてざわ/\と鳴《な》ると、閭《りよ》は髮《かみ》の毛《け》の根《ね》を締《し》め附《つ》けられるやうに感《かん》じて、全身《ぜんしん》の肌《はだ》に粟《あは》を生《しやう》じた。
閭《りよ》は忙《せは》しげに明家《あきや》を出《で》た。そして跡《あと》から附《つ》いて來《く》る道翹《だうげう》に言《い》つた。「拾得《じつとく》と云《い》
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