けい》と云《い》ふ川《かは》の左岸《さがん》を迂囘《うくわい》しつつ北《きた》へ進《すゝ》んで行《ゆ》く。初《はじ》め陰《くも》つてゐた空《そら》がやうやう晴《は》れて、蒼白《あをじろ》い日《ひ》が岸《きし》の紅葉《もみぢ》を照《てら》してゐる。路《みち》で出合《であ》ふ老幼《らうえう》は、皆《みな》輿《よ》を避《さ》けて跪《ひざまづ》く。輿《よ》の中《なか》では閭《りよ》がひどく好《い》い心持《こゝろもち》になつてゐる。牧民《ぼくみん》の職《しよく》にゐて賢者《けんしや》を禮《れい》すると云《い》ふのが、手柄《てがら》のやうに思《おも》はれて、閭《りよ》に滿足《まんぞく》を與《あた》へるのである。
 台州《たいしう》から天台縣《てんだいけん》までは六十|里《り》半《はん》程《ほど》である。日本《にほん》の六|里《り》半《はん》程《ほど》である。ゆる/\輿《よ》を舁《か》かせて來《き》たので、縣《けん》から役人《やくにん》の迎《むか》へに出《で》たのに逢《あ》つた時《とき》、もう午《ひる》を過《す》ぎてゐた。知縣《ちけん》の官舍《くわんしや》で休《やす》んで、馳走《ちそう》になりつゝ聞
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