》と仰《おつ》しやる。」閭《りよ》はしつかりおぼえて置《お》かうと努力《どりよく》するやうに、眉《まゆ》を顰《ひそ》めた。「わたしもこれから台州《たいしう》へ往《ゆ》くものであつて見《み》れば、殊《こと》さらお懷《なつ》かしい。序《ついで》だから伺《うかゞ》ひたいが、台州《たいしう》には逢《あ》ひに往《い》つて爲《た》めになるやうな、えらい人《ひと》はをられませんかな。」
「さやうでございます。國清寺《こくせいじ》に拾得《じつとく》と申《まを》すものがをります。實《じつ》は普賢《ふげん》でございます。それから寺《てら》の西《にし》の方《はう》に、寒巖《かんがん》と云《い》ふ石窟《せきくつ》があつて、そこに寒山《かんざん》と申《まを》すものがをります。實《じつ》は文殊《もんじゆ》でございます。さやうならお暇《いとま》をいたします。」かう言《い》つてしまつて、ついと出《で》て行《い》つた。
かう云《い》ふ因縁《いんねん》があるので、閭《りよ》は天台《てんだい》の國清寺《こくせいじ》をさして出懸《でか》けるのである。
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