っておきますと、寒山はそれをもらいに参るのでございます」
「なるほど」と言って、閭はついて行く。心のうちでは、そんなことをしている寒山、拾得が文殊《もんじゅ》、普賢《ふげん》なら、虎に騎《の》った豊干はなんだろうなどと、田舎者が芝居を見て、どの役がどの俳優かと思い惑うときのような気分になっているのである。
――――――――――――
「はなはだむさくるしい所で」と言いつつ、道翹は閭を厨のうちに連れ込んだ。
ここは湯気が一ぱい籠《こ》もっていて、にわかにはいって見ると、しかと物を見定めることも出来ぬくらいである。その灰色の中に大きい竈《かまど》が三つあって、どれにも残った薪《まき》が真赤に燃えている。しばらく立ち止まって見ているうちに、石の壁に沿うて造りつけてある卓《つくえ》の上で大勢の僧が飯や菜や汁を鍋釜《なべかま》から移しているのが見えて来た。
このとき道翹が奧の方へ向いて、「おい、拾得」と呼びかけた。
閭がその視線をたどって、入口から一番遠い竈の前を見ると、そこに二人の僧のうずくまって火に当っているのが見えた。
一人は髪の二三寸伸びた頭を剥《む》き出して、足には草履
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