その防禦の手段といふのは、神がシベリアの天幕住ひをしてゐるものに授けてくれたものである。火である。
ヤクツク人は冬中煖炉を焚き止めずにゐる。それから西洋でするやうに、煙突の中蓋を締めるといふ事はない。併し己は中蓋を拵へてゐる。その蓋は外から締めるやうになつてゐるのでその都度己は天幕の屋根の上に登らなくてはならない。
天幕の外側には雪を固めた階段が、屋根際まで付けてある。己の天幕は村はづれにあつて、屋根の上からはその村の全体が見渡される。村は山々に取り囲まれた谷間に出来てゐる。不断はこの屋根から村の天幕の窓の明りが見える。移住して来たロシア人の子孫や、流されて来た韃靼人《だつたんじん》の住ひである。けふは霧が冷たく、重く地の上に下りてゐて、少しの眺望も利かないので、不断見える明りが一つも見えない。只屋根の真上に星が一つ光つてゐる。それもどうしてこの濃い霧を穿《うが》つてこゝまで照らしてゐるかと、不思議に思はれる位である。
どの方角もしんとしてゐる。河を挾んでゐる山も、村の貧しげな天幕も、小さい会堂も、雪を被つてゐる広い畑《はた》も、暗く茂つてゐる森の縁も、皆果てのない霧に包まれてし
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