のと、この男の態度とはまるで違つてゐるといふ事に、己は気が付いた。無論己にだつてこの男が宿を借らない積りなら、馬を厩に引き込む筈がないといふ事だけは分からないのではない。
「一体お前さんは誰ですか。名前は。」
「わたくしですか。名はバギライと言ひます。これはこの土地で人がわたくしを呼ぶ時の名で、本当の名はワシリです。バヤガタイ領のものです。聞いてゐやしませんか。」
「ウラルで生れた流浪人だらう。」
 客の顔には満足らしい微笑がひらめいた。「さうです。では何か聞いてゐますね。」
「○○に聞いたのだ。あの男の近所に住まつてゐた事があるさうだね。」
「○○ならわたくしを知つてゐますよ。」
「宜しい。今夜は泊つて行くが好い。まあ、支度を楽にしようぢやないか。己も今は一人でゐるのだ。お前さんが体を楽にする間に、己は茶でも拵へよう。」
 流浪人は嬉しげに泊る事にした。
「どうも済みません。あなたが泊めて遣ると仰やれば、泊りますよ。それでは鞍に付けてある袋を卸して、ちよいちよいした物を出さなくてはなりません。馬は中庭まで入れてはありますが、さうして置く方がたしかです。こゝいらの人間には油断がなりませ
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