「ない。しかし十七の娘盛なのに、小間使としても少し受け取りにくい姿である。一言で評すれば、子守《こもり》あがり位にしか、値踏が出来兼ねるのである。
意外にもロダンの顔には満足の色が見えている。健康で余り安逸を貪《むさぼ》ったことの無い花子の、いささかの脂肪をも貯えていない、薄い皮膚の底に、適度の労働によって好く発育した、緊張力のある筋肉が、額と腮《あご》の詰まった、短い顔、あらわに見えている頸《くび》、手袋をしない手と腕に躍動しているのが、ロダンには気に入ったのである。
ロダンの差し伸べた手を、もう大分《だいぶ》ヨオロッパ慣れている花子は、愛相の好い微笑を顔に見せて握った。
ロダンは二人に椅子を侑《すす》めた。そして興行師に、「少し応接所で待っていて下さい」と云った。
興行師の出て行った跡で、二人は腰を掛けた。
ロダンは久保田の前に烟草《たばこ》の箱を開けて出しながら、花子に、「マドモアセユの故郷には山がありますか、海がありますか」と云った。
花子はこんな世渡《よわたり》をする女の常として、いつも人に問われるときに話す、きまった、〔ste're'otype〕《スシレオチイプ》
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