ちやを持つてゐて、どれでも一つやらうと云つたといふ記念から書き出してある。
子供がおもちやを持つて遊んで、暫くするときつとそれを壊して見ようとする。その物の背後に何物があるかと思ふ。おもちやが動くおもちやだと、それを動かす衝動の元を尋ねて見たくなるのである。子供は Physique より 〔Me'taphysique〕 に之くのである。理学より形而上学に之くのである。
僅か四五ペエジの文章なので、面白さに釣られてとう/\読んでしまつた。
其時戸をこつ/\と叩く音がして、戸を開いた。ロダンが白髪頭をのぞけた。
「許して下さい。退屈したでせう。」
「いゝえ、ボオドレエルを読んでゐました」と云ひながら、久保田は為事場に出て来た。
花子はもうちやんと支度をしてゐる。
卓の上には esquisses が二枚出来てゐる。
「ボオドレエルの何を読みましたか。」
「おもちやの形而上学です。」
「人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の上に透き徹つて見える内の焔が面白いのです。」
久保田が遠慮げにエスキスを見ると、ロダンは云つた。「粗いから分かりますまい。」
暫くして又
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